何も知らない弁護士

弁護士のメモ

刑事収容施設法「第二編 被収容者等の処遇」

平成十七年法律第五十号
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律

第二編 被収容者等の処遇

第一章 処遇の原則

(受刑者の処遇の原則)
第三十条 受刑者の処遇は、その者の年齢、資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。
(未決拘禁者の処遇の原則)
第三十一条 未決拘禁者の処遇に当たっては、未決の者としての地位を考慮し、その逃走及び罪証の隠滅の防止並びにその防御権の尊重に特に留意しなければならない。
(死刑確定者の処遇の原則)
第三十二条 死刑確定者の処遇に当たっては、その者が心情の安定を得られるようにすることに留意するものとする。
2 死刑確定者に対しては、必要に応じ、民間の篤志家の協力を求め、その心情の安定に資すると認められる助言、講話その他の措置を執るものとする。

第二章 刑事施設における被収容者の処遇

第一節 収容の開始

(収容開始時の告知)
第三十三条 刑事施設の長は、被収容者に対し、その刑事施設における収容の開始に際し、被収容者としての地位に応じ、次に掲げる事項を告知しなければならない。その刑事施設に収容されている被収容者がその地位を異にするに至ったときも、同様とする。
一 物品の貸与及び支給並びに自弁に関する事項
二 第四十八条第一項に規定する保管私物その他の金品の取扱いに関する事項
三 保健衛生及び医療に関する事項
四 宗教上の行為、儀式行事及び教誨(かい)に関する事項
五 書籍等(書籍、雑誌、新聞紙その他の文書図画(信書を除く。)をいう。以下同じ。)の閲覧に関する事項
六 第七十四条第一項に規定する遵守事項
七 面会及び信書の発受に関する事項
八 懲罰に関する事項
九 審査の申請を行うことができる措置、審査の申請をすべき行政庁及び審査の申請期間その他の審査の申請に関する事項
十 第百六十三条第一項の規定による申告を行うことができる行為、申告先及び申告期間その他の同項の規定による申告に関する事項
十一 苦情の申出に関する事項
2 前項の規定による告知は、法務省令で定めるところにより、書面で行う。
(識別のための身体検査)
第三十四条 刑務官は、被収容者について、その刑事施設における収容の開始に際し、その者の識別のため必要な限度で、その身体を検査することができる。その後必要が生じたときも、同様とする。
2 女子の被収容者について前項の規定により検査を行う場合には、女子の刑務官がこれを行わなければならない。ただし、女子の刑務官がその検査を行うことができない場合には、男子の刑務官が刑事施設の長の指名する女子の職員を指揮して、これを行うことができる。

第二節 処遇の態様

(未決拘禁者の処遇の態様)
第三十五条 未決拘禁者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この章において同じ。)の処遇(運動、入浴又は面会の場合その他の法務省令で定める場合における処遇を除く。次条第一項及び第三十七条第一項において同じ。)は、居室外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。

▶規則11条(法第三十五条第一項に規定する法務省令で定める場合)

第十一条 法第三十五条第一項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 運動入浴又は面会の場合
二 健康診断又は診療の場合
三 前二号に掲げる場合のほか、居室において行うことが困難な処遇を行う場合

2 未決拘禁者(死刑確定者としての地位を有するものを除く。)の居室は、罪証の隠滅の防止上支障を生ずるおそれがある場合には、単独室とし、それ以外の場合にあっても、処遇上共同室に収容することが適当と認める場合を除き、できる限り、単独室とする。
3 未決拘禁者は、罪証の隠滅の防止上支障を生ずるおそれがある場合には、居室外においても相互に接触させてはならない。
(死刑確定者の処遇の態様)
第三十六条 死刑確定者の処遇は、居室外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。
2 死刑確定者の居室は、単独室とする。
3 死刑確定者は、居室外においても、第三十二条第一項に定める処遇の原則に照らして有益と認められる場合を除き、相互に接触させてはならない。
(各種被収容者の処遇の態様)
第三十七条 各種被収容者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この章において同じ。)の処遇は、居室外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。
2 各種被収容者の居室は、処遇上共同室に収容することが適当と認める場合を除き、できる限り、単独室とする。

第三節 起居動作の時間帯等

(起居動作の時間帯等)
第三十八条 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、次に掲げる時間帯を定め、これを被収容者に告知するものとする。
一 食事、就寝その他の起居動作をすべき時間帯

▶規則12条1項

第十二条 法第三十八条第一号に掲げる時間帯は、次の各号に規定する時間帯について次に掲げる基準に従い定めるほか、居室に在室していることを確認するための点検の時間帯について定めるものとする。
一 食事の時間帯は、朝食については午前六時三十分から午前八時三十分までの間で、昼食については午前十一時から午後一時までの間で、夕食については午後四時から午後七時までの間で定めること。
二 就寝の時間帯は、午後九時から翌日の午前八時までの間で、連続する八時間以上の時間帯を定めること。
三 運動の時間帯は、午前七時から午後五時までの間で定めること。ただし、居室内において運動を行う機会を与えるときは、午前七時から午後七時までの間で定めることができる。
四 入浴の時間帯は、午前七時から午後九時までの間で定めること。

二 受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この章において同じ。)については、第八十七条第一項に規定する矯正処遇等の時間帯及び余暇に充てられるべき時間帯

▶規則12条2項

2 法第三十八条第二号に掲げる時間帯は、次に掲げる基準に従い定めるものとする。
一 矯正処遇等の時間帯は、午前七時から午後七時までの間で定め、矯正処遇等を行う時間が六時間を超えるときは、その途中に、二十分以上の休憩の時間帯を定めること。
二 余暇に充てられるべき時間帯(以下「余暇時間帯」という。)は、矯正処遇等を行う日においては、二時間以上の時間帯を定めること。

(余暇活動の援助等)
第三十九条 刑事施設の長は、被収容者に対し、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがない限り、余暇時間帯等(受刑者にあっては余暇に充てられるべき時間帯をいい、その他の被収容者にあっては食事、就寝その他の起居動作をすべき時間帯以外の時間帯をいう。次項において同じ。)において自己契約作業(その者が刑事施設の外部の者との請負契約により行う物品の製作その他の作業をいう。以下同じ。)を行うことを許すものとする。
2 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、被収容者に対し、自己契約作業、知的、教育的及び娯楽的活動、運動競技その他の余暇時間帯等における活動について、援助を与えるものとする。

▶規則13条1項

第十三条 法第三十九条第二項の規定による援助は、次項に定めるところによるほか、運動競技その他の複数の被収容者が共同で参加することができる活動の企画、刑事施設に備え付けた書籍等、運動器具、遊具その他の物品の貸与その他余暇時間帯等(受刑者にあっては余暇時間帯をいい、その他の被収容者にあっては食事、就寝その他の起居動作をすべき時間帯以外の時間帯をいう。以下同じ。)における活動を行うのに必要かつ適切な措置を講ずることにより行うものとする。

第四節 物品の貸与等及び自弁

(物品の貸与等)
第四十条 被収容者には、次に掲げる物品(書籍等を除く。以下この節において同じ。)であって、刑事施設における日常生活に必要なもの(第四十二条第一項各号に掲げる物品を除く。)を貸与し、又は支給する
一 衣類及び寝具
二 食事及び湯茶
三 日用品、筆記具その他の物品

「被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令」(法務省矯成訓第3339号)の別表参照

▶「食事及び湯茶」

「食料品及び飲料」(法41Ⅰ➁)のうち、人の生存に不可欠・基本的なもの(逐条解説・刑事収容施設法〔第3版〕136頁)

▶「日用品、筆記具」

筆記具以外の文房具は、本項の対象外。cf.次条1項5号「日用品、文房具」

2 被収容者には、前項に定めるもののほか、法務省令で定めるところにより、必要に応じ、室内装飾品その他の刑事施設における日常生活に用いる物品(第四十二条第一項各号に掲げる物品を除く。)を貸与し、又は嗜(し)好品(酒類を除く。以下同じ。)を支給することができる。

▶規則14条2項・3項

2 被収容者には、嗜好品は、優遇措置として支給するほか、受刑者の処遇として特別な行事を行う場合並びに国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)第二条に規定する国民の祝日、一月二日及び一月三日に限り、支給することができるものとする。
3 前二項に定めるもののほか、法第四十条第二項の規定により被収容者に貸与し、又は支給する物品の品名及びその貸与又は支給の基準は、法務大臣が定める。

(自弁の物品の使用等)
第四十一条 刑事施設の長は、受刑者が、次に掲げる物品(次条第一項各号に掲げる物品を除く。次項において同じ。)について、自弁のものを使用し、又は摂取したい旨の申出をした場合において、その者の処遇上適当と認めるときは、法務省令で定めるところにより、これを許すことができる。
一 衣類
二 食料品及び飲料
三 室内装飾品

▶規則16条2項

2 受刑者以外の被収容者には、法第四十一条第一項第三号に掲げる物品は、法務大臣が定める品名のものについて、自弁のものの使用を許すものとする。

四 嗜好品

▶規則16条3項

3 受刑者以外の被収容者には、法第四十一条第一項第四号に掲げる物品は、たばこ以外の物品について、自弁のものの摂取を許すものとする。

五 日用品、文房具その他の刑事施設における日常生活に用いる物品

▶規則16条4項

4 受刑者以外の被収容者には、法第四十一条第一項第五号に掲げる物品は、次に掲げる物品(法務大臣が定める品名のものに限る。)について、自弁のものの使用又は摂取を許すものとする。
一 タオル、石けん、洗髪剤、洗顔用具、調髪用具、サンダル、座布団、ハンガーその他の日用品
二 文房具、遊具その他の余暇時間帯等における知的、教育的及び娯楽的活動に用いる物品
三 手袋、マスクその他の身体に装着する物品(衣類を除く。)であって、受刑者以外の被収容者の健康状態その他の事情に照らして使用することが必要なもの

2 刑事施設の長は、受刑者以外の被収容者が、前項各号に掲げる物品及び寝具について自弁のものを使用し、又は摂取したい旨の申出をした場合には、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合並びに第十二節の規定により禁止される場合を除き、法務省令で定めるところにより、これを許すものとする。

(補正器具等の自弁等)
第四十二条 被収容者には、次に掲げる物品については、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合を除き、自弁のものを使用させるものとする。
一 眼鏡その他の補正器具
二 自己契約作業を行うのに必要な物品
三 信書を発するのに必要な封筒その他の物品
四 第百六条の二第一項の規定による外出又は外泊の際に使用する衣類その他の物品
五 その他法務省令で定める物品

▶規則17条

第十七条 法第四十二条第一項第五号に規定する法務省令で定める物品は、次に掲げる物品とする。
一 印紙及び印鑑
二 かつら(法第百六条の二第一項の規定により外出し、又は外泊する場合、裁判所に出頭する場合その他の刑事施設の長がかつらの着用を許すことが適当と認める場合に限る。)

2 前項各号に掲げる物品について、被収容者が自弁のものを使用することができない場合であって、必要と認めるときは、その者にこれを貸与し、又は支給するものとする。
(物品の貸与等の基準)
第四十三条 第四十条又は前条第二項の規定により貸与し、又は支給する物品は、被収容者の健康を保持するに足り、かつ、国民生活の実情等を勘案し、被収容者としての地位に照らして、適正と認められるものでなければならない。
第五節 金品の取扱い
(金品の検査)
第四十四条 刑事施設の職員は、次に掲げる金品について、検査を行うことができる。
一 被収容者が収容される際に所持する現金及び物品
二 被収容者が収容中に取得した現金及び物品(信書を除く。次号において同じ。)であって、同号に掲げる現金及び物品以外のもの(刑事施設の長から支給された物品を除く。)
三 被収容者に交付するため当該被収容者以外の者が刑事施設に持参し、又は送付した現金及び物品
(収容時の所持物品等の処分)
第四十五条 刑事施設の長は、前条第一号又は第二号に掲げる物品が次の各号のいずれかに該当するときは、被収容者に対し、その物品について、親族(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)その他相当と認める者への交付その他相当の処分を求めるものとする。
一 保管に不便なものであるとき。
二 腐敗し、又は滅失するおそれがあるものであるとき。
三 危険を生ずるおそれがあるものであるとき。
2 前項の規定により物品の処分を求めた場合において、被収容者が相当の期間内にその処分をしないときは、刑事施設の長は、これを売却してその代金を領置する。ただし、売却することができないものは、廃棄することができる。
(差入物の引取り等)
第四十六条 刑事施設の長は、第四十四条第三号に掲げる現金又は物品が次の各号のいずれかに該当するときは、その現金又は物品を持参し、又は送付した者(以下「差入人」という。)に対し、その引取りを求めるものとする。
一 被収容者に交付することにより、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるものであるとき。
二 交付の相手方が受刑者であり、かつ、差入人が親族以外の者である場合において、その受刑者に交付することにより、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるものであるとき。
三 交付の相手方が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところによりその者が交付を受けることが許されない物品であるとき。
四 差入人の氏名が明らかでないものであるとき。
五 自弁により使用し、若しくは摂取することができることとされる物品又は釈放の際に必要と認められる物品(以下「自弁物品等」という。)以外の物品であるとき。
六 前条第一項各号のいずれかに該当する物品であるとき。
2 第四十四条第三号に掲げる現金又は物品であって、前項第一号から第四号までのいずれかに該当するものについて、差入人の所在が明らかでないため同項の規定による引取りを求めることができないときは、刑事施設の長は、その旨を政令で定める方法によって公告しなければならない。
3 前項に規定する現金又は物品について、第一項の規定による引取りを求め、又は前項の規定により公告した日から起算して六月を経過する日までに差入人がその現金又は物品の引取りをしないときは、その現金又は物品は、国庫に帰属する。
4 第二項に規定する物品であって、第一項第六号に該当するものについては、刑事施設の長は、前項の期間内でも、これを売却してその代金を保管することができる。ただし、売却できないものは、廃棄することができる。
5 第四十四条第三号に掲げる現金又は物品であって、第一項第五号又は第六号に該当するもの(同項第一号から第四号までのいずれかに該当するものを除く。)について、差入人の所在が明らかでないため同項の規定による引取りを求めることができないとき、若しくはその引取りを求めることが相当でないとき、又は差入人がその引取りを拒んだときは、刑事施設の長は、被収容者に対し、親族その他相当と認める者への交付その他相当の処分を求めるものとする。
6 前条第二項の規定は、前項の規定により処分を求めた場合について準用する。
7 第四十四条第三号に掲げる現金又は物品であって、第一項各号のいずれにも該当しないものについて、被収容者がその交付を受けることを拒んだ場合には、刑事施設の長は、差入人に対し、その引取りを求めるものとする。この場合においては、第二項及び第三項の規定を準用する。
(物品の引渡し及び領置)
第四十七条 次に掲げる物品のうち、この法律の規定により被収容者が使用し、又は摂取することができるものは、被収容者に引き渡す。
一 第四十四条第一号又は第二号に掲げる物品であって、第四十五条第一項各号のいずれにも該当しないもの
二 第四十四条第三号に掲げる物品であって、前条第一項各号のいずれにも該当しないもの(被収容者が交付を受けることを拒んだ物品を除く。)
2 次に掲げる金品は、刑事施設の長が領置する。
一 前項各号に掲げる物品のうち、この法律の規定により被収容者が使用し、又は摂取することができるもの以外のもの
二 第四十四条各号に掲げる現金であって、前条第一項第一号、第二号又は第四号のいずれにも該当しないもの
(保管私物等)
第四十八条 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、保管私物(被収容者が前条第一項の規定により引渡しを受けて保管する物品(第五項の規定により引渡しを受けて保管する物品を含む。)及び被収容者が受けた信書でその保管するものをいう。以下この章において同じ。)の保管方法について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。
2 刑事施設の長は、被収容者の保管私物(法務省令で定めるものを除く。)の総量(以下この節において「保管総量」という。)が保管限度量(被収容者としての地位の別ごとに被収容者一人当たりについて保管することができる物品の量として刑事施設の長が定める量をいう。以下この節において同じ。)を超えるとき、又は被収容者について領置している物品(法務省令で定めるものを除く。)の総量(以下この節において「領置総量」という。)が領置限度量(被収容者としての地位の別ごとに被収容者一人当たりについて領置することができる物品の量として刑事施設の長が定める量をいう。以下この節において同じ。)を超えるときは、当該被収容者に対し、その超過量に相当する量の物品について、親族その他相当と認める者への交付その他相当の処分を求めることができる。腐敗し、又は滅失するおそれが生じた物品についても、同様とする。
3 第四十五条第二項の規定は、前項の規定により処分を求めた場合について準用する。
4 刑事施設の長は、被収容者が保管私物について領置することを求めた場合において、相当と認めるときは、これを領置することができる。ただし、領置総量が領置限度量を超えることとなる場合は、この限りでない。
5 刑事施設の長は、前項の規定により領置している物品について、被収容者がその引渡しを求めた場合には、これを引き渡すものとする。ただし、保管総量が保管限度量を超えることとなる場合は、この限りでない。
(領置金の使用)
第四十九条 刑事施設の長は、被収容者が、自弁物品等を購入し、又は刑事施設における日常生活上自ら負担すべき費用に充てるため、領置されている現金を使用することを申請した場合には、必要な金額の現金の使用を許すものとする。ただし、自弁物品等を購入するための現金の使用については、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 購入により、保管総量が保管限度量を超え、又は領置総量が領置限度量を超えることとなるとき。
二 被収容者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより購入する自弁物品等の交付を受けることが許されないとき。
(保管私物又は領置金品の交付)
第五十条 刑事施設の長は、被収容者が、保管私物又は領置されている金品(第百三十三条(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する文書図画に該当するものを除く。)について、他の者(当該刑事施設に収容されている者を除く。)への交付(信書の発信に該当するものを除く。)を申請した場合には、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これを許すものとする。
一 交付(その相手方が親族であるものを除く。次号において同じ。)により、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき。
二 被収容者が受刑者である場合において、交付により、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
三 被収容者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品であるとき。
(差入れ等に関する制限)
第五十一条 刑事施設の長は、この節に定めるもののほか、法務省令で定めるところにより、差入人による被収容者に対する金品の交付及び被収容者による自弁物品等の購入について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。
(領置物の引渡し)
第五十二条 刑事施設の長は、被収容者の釈放の際、領置している金品をその者に引き渡すものとする。
(釈放者の遺留物)
第五十三条 釈放された被収容者の遺留物(刑事施設に遺留した金品をいう。以下この章において同じ。)は、その釈放の日から起算して六月を経過する日までに、その者からその引渡しを求める申出がなく、又はその引渡しに要する費用の提供がないときは、国庫に帰属する。
2 前項の期間内でも、刑事施設の長は、腐敗し、又は滅失するおそれが生じた遺留物は、廃棄することができる。
(逃走者等の遺留物)
第五十四条 被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に定める日から起算して六月を経過する日までに、その者から引渡しを求める申出がなく、又は引渡しに要する費用の提供がないときは、その遺留物は、国庫に帰属する。
一 逃走したとき 逃走した日
二 第八十三条第二項の規定により解放された場合において、同条第三項に規定する避難を必要とする状況がなくなった後速やかに同項に規定する場所に出頭しなかったとき 避難を必要とする状況がなくなった日
三 第九十六条第一項の規定による作業又は第百六条の二第一項の規定による外出若しくは外泊の場合において、刑事施設の長が指定した日時までに刑事施設に帰着しなかったとき その日
2 前条第二項の規定は、前項の遺留物について準用する。
(死亡者の遺留物)
第五十五条 死亡した被収容者の遺留物は、法務省令で定めるところにより、その遺族等(法務省令で定める遺族その他の者をいう。以下この章において同じ。)に対し、その申請に基づき、引き渡すものとする。
2 死亡した被収容者の遺留物がある場合において、その遺族等の所在が明らかでないため第百七十六条の規定による通知をすることができないときは、刑事施設の長は、その旨を政令で定める方法によって公告しなければならない。
3 第一項の遺留物は、第百七十六条の規定による通知をし、又は前項の規定により公告をした日から起算して六月を経過する日までに第一項の申請がないときは、国庫に帰属する。
4 第五十三条第二項の規定は、第一項の遺留物について準用する。

第六節 保健衛生及び医療

(保健衛生及び医療の原則)
第五十六条 刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。

(運動)
第五十七条 被収容者には、日曜日その他法務省令で定める日を除き、できる限り戸外で、その健康を保持するため適切な運動を行う機会を与えなければならない。ただし、公判期日への出頭その他の事情により刑事施設の執務時間内にその機会を与えることができないときは、この限りでない。

▶規則24条

第二十四条 法第五十七条に規定する法務省令で定める日は、次に掲げる日とする。
一 第十九条第二項第二号及び第三号に掲げる日
二 三十分以上矯正処遇として運動を行う日であって、刑事施設の長が、一週間につき三日の範囲内で定める日
三 おおむね居室棟内において処遇を行う日であって、刑事施設の長が、一月につき四日の範囲内で定める日
2 被収容者には、一日に三十分以上、かつ、できる限り長時間、運動の機会を与えるものとする。

(被収容者の清潔義務)
第五十八条 被収容者は、身体、着衣及び所持品並びに居室その他日常使用する場所を清潔にしなければならない。

(入浴)
第五十九条 被収容者には、法務省令で定めるところにより、刑事施設における保健衛生上適切な入浴を行わせる。

▶規則25条

(入浴の回数等)
第二十五条 被収容者には、収容の開始後速やかに、及び一週間に二回以上(閉居罰(法第百五十一条第一項第五号の懲罰をいう。以下同じ。)を科されている者については、一週間に一回以上)、入浴を行わせる。
2 女子の被収容者の入浴の立会いは、女子の職員が行わなければならない。

(調髪及びひげそり)
第六十条 受刑者には、法務省令で定めるところにより調髪及びひげそりを行わせる。

▶規則26条【受刑者

第二十六条 男子の受刑者には、刑の執行開始後速やかに、及びおおむね一月に一回調髪を行わせる。
2 男子の受刑者には、刑の執行開始後速やかに、及び一週間に二回以上(閉居罰を科されている者については、一週間に一回以上)、ひげそりを行わせる。
3 女子の受刑者には、必要があるときに、調髪及び顔そりを行わせる。
4 前三項の規定にかかわらず、受刑者が調髪又はひげそりを行わないことを希望する場合において、その宗教、その者が国籍を有する国における風俗慣習、釈放の時期その他の事情を考慮して相当と認めるときは、調髪又はひげそりを行わせないものとする。
5 受刑者に行わせる調髪の髪型の基準は、法務大臣が定める。

▶規則27条【受刑者以外の被収容者

(受刑者以外の被収容者の調髪及びひげそりの回数等)
第二十七条 受刑者以外の被収容者であって男子であるものには、おおむね二月に一回以上、調髪を行うことを許すものとする。
2 受刑者以外の被収容者であって女子であるものには、おおむね三月に一回以上、調髪を行うことを許すものとする。
3 受刑者以外の被収容者であって男子であるものには、一週間に二回以上(閉居罰を科されている者については、一週間に一回以上)、ひげそりを行うことを許すものとする。
4 受刑者以外の被収容者であって女子であるものには、一月に一回以上、顔そりを行うことを許すものとする。
5 受刑者以外の被収容者の行う調髪(自弁により行うものを除く。)の髪型の基準は、法務大臣が定める。

2 刑事施設の長は、受刑者が自弁により調髪を行いたい旨の申出をした場合において、その者の処遇上適当と認めるときは、これを許すことができる。
3 刑事施設の長は、受刑者以外の被収容者が調髪又はひげそりを行いたい旨の申出をした場合には、法務省令で定めるところにより、これを許すものとする。
(健康診断)
第六十一条 刑事施設の長は、被収容者に対し、その刑事施設における収容の開始後速やかに、及び毎年一回以上定期的に、法務省令で定めるところにより、健康診断を行わなければならない。刑事施設における保健衛生上必要があるときも、同様とする。
2 被収容者は、前項の規定による健康診断を受けなければならない。この場合においては、その健康診断の実施のため必要な限度内における採血、エックス線撮影その他の医学的処置を拒むことはできない。
(診療等)
第六十二条 刑事施設の長は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、速やかに、刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療(栄養補給の処置を含む。以下同じ。)を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする。ただし、第一号に該当する場合において、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限る。
一 負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき。
二 飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがあるとき。
2 刑事施設の長は、前項に規定する場合において、傷病の種類又は程度等に応じ必要と認めるときは、刑事施設の職員でない医師等による診療を行うことができる。
3 刑事施設の長は、前二項の規定により診療を行う場合において、必要に応じ被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に通院させ、やむを得ないときは被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に入院させることができる。
(指名医による診療)
第六十三条 刑事施設の長は、負傷し、又は疾病にかかっている被収容者が、刑事施設の職員でない医師等を指名して、その診療を受けることを申請した場合において、傷病の種類及び程度、刑事施設に収容される前にその医師等による診療を受けていたことその他の事情に照らして、その被収容者の医療上適当であると認めるときは、刑事施設内において、自弁によりその診療を受けることを許すことができる。
2 刑事施設の長は、前項の規定による診療を受けることを許す場合において、同項の診療を行う医師等(以下この条において「指名医」という。)の診療方法を確認するため、又はその後にその被収容者に対して刑事施設において診療を行うため必要があるときは、刑事施設の職員をしてその診療に立ち会わせ、若しくはその診療に関して指名医に質問させ、又は診療録の写しその他のその診療に関する資料の提出を求めることができる。
3 指名医は、その診療に際し、刑事施設の長が法務省令で定めるところにより指示する事項を遵守しなければならない。
4 刑事施設の長は、第一項の規定による診療を受けることを許した場合において、その指名医が、第二項の規定により刑事施設の長が行う措置に従わないとき、前項の規定により刑事施設の長が指示する事項を遵守しないとき、その他その診療を継続することが不適当であるときは、これを中止し、以後、その指名医の診療を受けることを許さないことができる。
(感染症予防上の措置)
第六十四条 刑事施設の長は、刑事施設内における感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要がある場合には、被収容者に対し、第六十一条の規定による健康診断又は第六十二条の規定による診療その他必要な医療上の措置を執るほか、予防接種、当該疾病を感染させるおそれがなくなるまでの間の隔離その他法務省令で定める措置を執るものとする。
(養護のための措置等)
第六十五条 刑事施設の長は、老人、妊産婦、身体虚弱者その他の養護を必要とする被収容者について、その養護を必要とする事情に応じ、傷病者のための措置に準じた措置を執るものとする。
2 刑事施設の長は、被収容者が出産するときは、やむを得ない場合を除き、刑事施設の外の病院、診療所又は助産所に入院させるものとする。
(子の養育)
第六十六条 刑事施設の長は、女子の被収容者がその子を刑事施設内で養育したい旨の申出をした場合において、相当と認めるときは、その子が一歳に達するまで、これを許すことができる。
2 刑事施設の長は、被収容者が、前項の規定により養育され一歳に達した子について、引き続いて刑事施設内で養育したい旨の申出をした場合において、その被収容者の心身の状況に照らして、又はその子を養育する上で、特に必要があるときは、引き続き六月間に限り、これを許すことができる。
3 被収容者が前二項の規定により子を養育している場合には、その子の養育に必要な物品を貸与し、又は支給する。
4 前項に規定する場合において、被収容者が、その子の養育に必要な物品について、自弁のものを使用し、若しくは摂取し、又はその子に使用させ、若しくは摂取させたい旨の申出をした場合には、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障がない限り、これを許すものとする。
5 被収容者が第一項又は第二項の規定により養育している子については、被収容者の例により、健康診断、診療その他の必要な措置を執るものとする。
第七節 宗教上の行為等
(一人で行う宗教上の行為)
第六十七条 被収容者が一人で行う礼拝その他の宗教上の行為は、これを禁止し、又は制限してはならない。ただし、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合は、この限りでない。
(宗教上の儀式行事及び教誨)
第六十八条 刑事施設の長は、被収容者が宗教家(民間の篤志家に限る。以下この項において同じ。)の行う宗教上の儀式行事に参加し、又は宗教家の行う宗教上の教誨を受けることができる機会を設けるように努めなければならない。
2 刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合には、被収容者に前項に規定する儀式行事に参加させず、又は同項に規定する教誨を受けさせないことができる。

第八節 書籍等の閲覧

(自弁の書籍等の閲覧)
第六十九条 被収容者が自弁の書籍等を閲覧することは、この節及び第十二節の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。
第七十条 刑事施設の長は、被収容者が自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる。
一 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。
二 被収容者が受刑者である場合において、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
三 被収容者が未決拘禁者である場合において、罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあるとき。
2 前項の規定により閲覧を禁止すべき事由の有無を確認するため自弁の書籍等の翻訳が必要であるときは、法務省令で定めるところにより、被収容者にその費用を負担させることができる。この場合において、被収容者が負担すべき費用を負担しないときは、その閲覧を禁止する。
(新聞紙に関する制限)
第七十一条 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、被収容者が取得することができる新聞紙の範囲及び取得方法について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。
(時事の報道に接する機会の付与等)
第七十二条 刑事施設の長は、被収容者に対し、日刊新聞紙の備付け、報道番組の放送その他の方法により、できる限り、主要な時事の報道に接する機会を与えるように努めなければならない。
2 刑事施設の長は、第三十九条第二項の規定による援助の措置として、刑事施設に書籍等を備え付けるものとする。この場合において、備え付けた書籍等の閲覧の方法は、刑事施設の長が定める。

R7刑法改正(デジタル化)について

1 電子計算機損壊等公務執行妨害の新設

(電子計算機損壊等公務執行妨害)
第九十五条の二 公務員が職務を執行するに当たり、その職務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくはその職務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、その電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 ※新設

 

2 偽造罪関係

⑴ 公文書偽造等

新条文 旧条文

第百五十五条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。

一 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為

二 公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等(印章等として表示されることとなる電磁的記録をいう。以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において同じ。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等(文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録をいう。以下この章において同じ。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等を偽造する行為

第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

2 公務所若しくは公務員が押印し若しくは署名した文書又は公務所若しくは公務員が電磁的記録印章等使用して作成した電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。

2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

 

3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは電磁的記録文書等を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは電磁的記録文書等を変造した者は、三年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。

3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。

 

⑵ 虚偽公文書作成等

第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は文書若しくは電磁的記録文書等を変造したときは、印章又は電磁的記録印章等の有無により区別して、前二条の例による。

 

⑶ 公正証書原本不実記載等

第百五十七条

2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札若しくは旅券に不実の記載をさせ、又は電磁的記録文書等その他の電磁的記録であって、免状、鑑札若しくは旅券の全部若しくは一部として用いられるものに不実の記録をさせた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。

 

⑷ 偽造公文書行使等

第百五十八条 第百五十四条から前条までの文書若しくは電磁的記録文書等を行使し、同条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供し、又は同条第二項の電磁的記録を人の事務処理の用に供した者は、その文書若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。

 

⑸ 私文書偽造等

第百五十九条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。

一 他人の印章を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書を偽造し、又は偽造した他人の印章を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書を偽造する行為

二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為 ※新設

2 他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書又は他人が電磁的記録印章等使用して作成した権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。

3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は電磁的記録文書等を偽造し、又は変造した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

 

⑹ 虚偽診断書等作成

第百六十条 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書若しくは死亡証書に虚偽の記載をし、又は公務所に提出すべき電磁的記録文書等であって、診断書、検案書若しくは死亡証書の全部若しくは一部として用いられるものに虚偽の記録をしたときは、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

 

⑺ 偽造私文書等行使

第百六十一条 前二条の文書又は電磁的記録文書等を行使した者は、その文書若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載若しくは記録をした者と同一の刑に処する。

 

⑻ 公印偽造及び不正使用等

第百六十五条 行使の目的で、公務所又は公務員の印章又は電磁的記録印章等を偽造した者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。

2 公務所若しくは公務員の印章若しくは電磁的記録印章等を不正に使用し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは電磁的記録印章等を使用した者も、前項と同様とする。

 

⑼ 公記号偽造及び不正使用等

第百六十六条 行使の目的で、公務所の記号又は電磁的記録記号(記号として表示されることとなる電磁的記録をいう。次項において同じ。)を偽造した者は、三年以下の拘禁刑に処する。

2 公務所の記号若しくは電磁的記録記号を不正に使用し、又は偽造した公務所の記号若しくは電磁的記録記号を使用した者も、前項と同様とする。

 

⑽ 私印偽造及び不正使用等

第百六十七条 行使の目的で、他人の印章又は電磁的記録印章等を偽造した者は、三年以下の拘禁刑に処する。

2 他人の印章若しくは電磁的記録印章等を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは電磁的記録印章等を使用した者も、前項と同様とする。

 

3 参議院法務委員会での説明

⑴ 電磁的記録をもって作成される文書の偽造等の罪の創設に関して

○政府参考人(森本宏君) 近時、スマートフォンやタブレット端末等のモバイル端末が広く普及し、そうした端末の映像面に表示して人に見せることにより様々な電磁的記録が紙媒体の文書と同様に利用されるようになっております。
 そのような中、近時、他人に成り済まして虚偽の内容の電磁的記録を作成し、インターネット上で悪用する行為が社会問題化している上、本法律案による改正後は、電磁的記録による令状の発付や執行が可能になることに伴いまして、電磁的記録による令状を偽造して悪用する事案の発生も懸念されます。
 しかし、このような電磁的記録を偽造する行為等につきまして、現行刑法の下では、電磁的記録は文書偽造罪等に言う文書には該当しないことから、処罰できない場合がございます。
 そこで、本法律案においては、文書と同様の機能を営む電磁的記録の社会的信頼を確保する観点から、文書として用いられる電磁的記録を偽造する行為等について現行の文書偽造罪等と同様の処罰をすることができるようにするために、電磁的記録をもって作成される文書を対象とする電磁的記録文書等偽造の罪を創設することとなっております。
 個々の事案の成否は証拠関係を踏まえて判断されるものでございますけれども、一般論として申し上げれば、例えば、投資詐欺の手段として、SNS上で他人に示すために著名人の名義を無断で使用し、虚偽の投資実績を紹介する内容の電磁的記録を作成した場合でありますとか、他人に成り済まして消費者金融から借入れ目的で金銭を詐取する手段として、消費者金融の従業員に示すために自己の運転免許証をPDFの電磁的記録として取り込んだ上、同電磁的記録の氏名等を改変した場合などに成立し得るものと考えております。

⑵ 電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設に関して

○政府参考人(森本宏君) 近時、情報通信技術等の進展等によりまして、警察官等の公務員がその職務の執行に電子計算機を用いる状況が生じており、本法律案による改正後の刑事訴訟法の下においても、例えば電磁的記録による令状を警察官がタブレット端末等の映像面に表示させて相手方に提示して執行するなどが予定されております。
 しかし、現行の公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行するに当たり、暴行又は脅迫を加える行為を対象としているため、公務員が職務に使用する電子計算機の動作を妨げる行為をしたとしても、当該公務員に対する暴行、脅迫に当たらない限り、同罪による処罰の対象とはなりません
 そこで、本法律案においては、公務を適切に保護する観点から、電子計算機損壊等公務執行妨害罪、公務執行妨害の罪を新設し、公務員が職務を執行するに当たり、その職務に使用する電子計算機を損壊したり、その電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えることなどする方法により、その電子計算機に使用目的に沿った動作をさせない行為等について、現行の公務執行妨害罪と同様に処罰することとしております。
 これもあくまで一般論でございますが、仮に今言いました警察官が令状をタブレット等の端末の映像面に表示させて相手に対して執行しようとする場面を想定いたしますと、そういった際に妨害電波を発するなどしまして令状を表示できないようにするといった行為については、この電子計算機損壊等公務執行妨害の罪が成立し得るというふうに考えております。

 

再審法改正について少し調べてみた

改正条文

令和8年7月17日成立の再審法の条文は、以下のサイトからわかる。

(※現在は、まだ、e-goveも変更されていない。)

成立法案(縦書き)⇦法務省のサイト

成立法案(横書き)⇦参議院のサイト

主要な部分だけ抜粋して、以下に掲載する。

1 除斥

第四百三十八条の二 裁判官は、再審の請求があつた事件について、原判決に係る被告事件についての次に掲げる裁判に関与したときは、職務の執行から除斥される。
一 第三百三十三条、第三百三十四条又は第三百三十六条の規定による判決
二 前号に掲げる判決に係る第三百九十六条の規定による判決
三 略式命令
➁ 裁判官が、再審開始の決定が確定した事件について、当該再審開始の決定に係る再審の請求についての次に掲げる決定に関与したときも、前項と同様とする。
一 第四百四十四条の二第二項(第二号に係る部分に限る。)又は第四百四十七条第一項若しくは第四百四十八条第一項の規定による決定
二 前号に掲げる決定に対する即時抗告又は第四百二十八条第二項の異議の申立てを棄却する決定(当該即時抗告又は異議の申立ての手続がその規定に違反したことのみを理由とするものを除く。)

2 再審請求の方式

第四百四十一条の二 再審の請求をするには、その理由を記載した書面を管轄裁判所に差し出さなければならない。
➁ 前項の書面には、証拠書類又は証拠物及び原判決の裁判書の謄本(裁判書が電磁的記録である場合にあつては、当該裁判書に記録されている事項の全部を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録であつてその内容が当該裁判書に記録されている事項と同一であることの証明がされたもの。以下この項において同じ。)を添えなければならない。ただし、第二百七十一条の二第一項若しくは第三百十二条の二第一項(第四百四条において準用する場合を含む。)の規定による求めがあつた場合又は第二百九十九条の四第一項、第三項、第六項若しくは第八項若しくは第二百九十九条の五第三項(これらの規定を第四百四条(第四百十四条において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定による措置がとられた場合であつて、原判決の裁判書の謄本を添えることができないときは、証拠書類又は証拠物及び原判決の裁判書の抄本(裁判書が電磁的記録である場合にあつては、当該裁判書に記録されている事項の一部を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録であつてその内容が当該裁判書に記録されている事項と同一であることの証明がされたもの)であつて、これらの求めに係る個人特定事項又はこれらの措置に係る氏名若しくは住居の記載又は記録がないものを添えれば足りる。

3 調査(いわゆるスクリーニング)

⑴ 調査手続

第四百四十四条の二 再審の請求を受けた裁判所は、遅滞なく、その請求について調査しなければならない。
➁ 前項の裁判所は、同項の規定による調査の結果に基づいて、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める決定をしなければならない。
一 次に掲げる場合 再審の請求を棄却する決定
イ 再審の請求が法令上の方式に違反したものであると認めるとき。
ロ 再審の請求が請求権の消滅後にされたものであると認めるとき。
ハ 第四百四十一条の二第一項の書面に記載された再審の請求の理由が明らかに第四百三十五条各号又は第四百三十六条第一項各号に掲げる場合に該当しないと認めるとき。

▶法制審議会の答申案では、これらに加えて、「再審の請求の理由がないことが明らかであると認めるとき。」にも棄却決定ができる条文となっていたが(諮問第129号に対する答申案6頁)、法律案提出時には、削除された(R8/5/26,221回国会衆議院本会議第20号谷川とむ発言)。

⇨ 理由がないことが明らかな再審請求であっても、調査手続の段階ではそれを理由として再審請求を棄却することはできない(平口答弁51

二 再審の請求が理由のあるものであることが明らかであると認める場合 再審開始の決定
三 前二号に掲げる場合以外の場合 審判を開始する旨の決定(以下「審判開始の決定」という。)

⑵ 執行停止時期の明確化、死刑確定者の拘置の停止

③ 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定による決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
④ 前項の規定により死刑の執行を停止したときは、決定で刑法第十一条第二項の規定による拘置を停止することができる。

4 審判開始決定後

⑴ 事実の取調べの請求

第四百四十五条中「再審の請求を受けた」を「審判開始の決定をした」に、「取調」を「取調べ」に改め、同条に第一項として次の一項を加える。

〈改正前〉

第四百四十五条 再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調をさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

〈改正後〉

第四百四十五条 審判開始の決定をした裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調べをさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

第四百四十五条に次の一項を加える。

再審の請求をした者(検察官を除く。以下「再審請求者」という。)、弁護人又は検察官は、審判開始の決定をした裁判所に対し、事実の取調べ請求することができる。

⑵ 証拠提出命令

第四百四十五条の二 審判開始の決定をした裁判所は、再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、再審請求者若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定で、検察官に対し、当該証拠の提出を命じなければならない。

▶請求の理由と関連する証拠に限る理由(国務大臣平口答弁

 再審請求審は、裁判所が再審請求者の主張する再審請求理由について審理、判断する手続です。
 したがって、証拠の提出命令の対象となる証拠は、その審理、判断に資する証拠、すなわち、再審請求理由に関連すると認められるものとすることが合理的です。
 また、裁判所において、再審請求理由と関係のない証拠について提出命令の要否を判断することは困難であると考えられます。
 そこで、本法律案においては、再審の請求の理由に関連すると認められる証拠を証拠の提出命令制度の対象とすることとしています。

▶これまでの実務運用よりも証拠の範囲が狭まることは想定されていない(同上)

 証拠の提出命令制度は、裁判所による証拠の提出、開示の勧告や検察官による任意の証拠の提出、開示という従来の実務運用を否定するものではなく、これに加えて、一定の場合に、裁判所に対して、検察官に証拠の提出を命ずる義務を課するものです。
 さらに、本法律案においては、再審請求理由に関連すると認める証拠の範囲が不当に狭くならないように留意されなければならない旨の規定を設けることとしています。
 したがって、本法律案により、これまでの実務運用よりも提出される証拠の範囲が狭まるようなことはないと考えています。
 改正法として成立した場合には、これらの趣旨等を関係機関に適切に周知してまいります。

 cf.附則4条1項

▶「関連する」とは?(平口答弁051

関連するとは、裁判所による再審請求理由についての判断に資するという意味であり、相当の広がりを持つものです。

➁ 裁判所は、前項の決定又は同項の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
③ 第一項の決定又は同項の請求を却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

⑶ 証拠又は証拠一覧表の提示命令

第四百四十五条の三 裁判所は、前条第一項の決定をするか否かの判断をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、当該判断の対象となる証拠の提示を命ずることができる。この場合において、当該証拠の全部又は一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録については、その内容を表示したものを閲覧し、又はその内容を再生したものを視聴する方法により、提示を受けるものとする。
➁ 裁判所は、前条第一項の決定をするか否かの判断をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、その保管する証拠であつて、裁判所の指定する範囲に属するものの標目の一覧表を提示することを命ずることができる。この場合において、検察官が当該一覧表を電磁的記録をもつて作成したときは、当該一覧表については、その内容を表示したものを閲覧する方法により、提示を受けるものとする。
③ 前二項の場合においては、裁判所は、何人にも、第一項の証拠又は前項の一覧表の閲覧又は謄写をさせることができない。
④ 前三項の規定は、前条第三項の即時抗告が係属する抗告裁判所について準用する。

⑷ 複製等の適正管理

第四百四十五条の四 弁護人は、再審の請求の手続において、裁判所が審判開始の決定をした後に検察官から提出を受けた証拠を謄写したときは、その証拠に係る複製等を適正に管理し、その保管をみだりに他人に委ねてはならない

⑸ 複製等の目的外使用の禁止

第四百四十五条の五 再審請求者、弁護人又は弁護人であつた者は、前条に規定する証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。

▶意義(上記平口答弁)

謄写した証拠の複製等を再審の手続やその準備等に使用することはもとより許される上、証拠の概要を口頭で伝達するなどの行為は禁止されません。

一 当該再審の請求に係る事件についての再審の請求の手続
二 前号に掲げる手続において再審開始の決定が確定した場合における被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理及び当該被告事件に関する第二百八十一条の四第一項第二号に掲げる手続(同号ホに掲げるものを除く。)
➁ 前項の規定に違反した場合の措置については、再審請求者の再審の請求に係る利益又は再審における被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉又はその私生活若しくは業務の平穏が害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。

⑹ 目的外使用の罪

第四百四十五条の六 再審請求者が、第四百四十五条の四に規定する証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
➁ 弁護人又は弁護人であつた者が、第四百四十五条の四に規定する証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。

弁護人が罰せられるのは、「対価として利益を得る目的」がある場合に限る。

弁護人等が証拠の複製等をマスコミ等に提供したとしても、その全てが処罰の対象となるわけではありません。(平口答弁056

⑺ 再審請求についての意見聴取、審理終結日の指定・通知

第四百四十五条の七 審判開始の決定をした裁判所は、審理を終結するまでに、再審の請求について、再審請求者(再審請求者が第四百三十九条第一項第三号に掲げる者である場合にあつては、再審請求者及び有罪の言渡しを受けた者)、弁護人及び検察官の意見を聴かなければならない。
➁ 審判開始の決定をした裁判所は、審理を終結するには、審理を終結する日(以下この条において「審理終結日」という。)を定めなければならない。この場合においては、あらかじめ、審理の終結について、再審請求者又は弁護人及び検察官の意見を聴かなければならない。
③ 審判開始の決定をした裁判所は、再審請求者、弁護人若しくは検察官の請求により、又は職権で、審理終結日を変更することができる。
④ 審理終結日を変更するには、裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、再審請求者又は弁護人及び検察官の意見を聴かなければならない。ただし、急速を要する場合は、この限りでない。
⑤ 審理終結日は、再審請求者、弁護人及び検察官に通知しなければならない。

⑻ 決定日の指定・通知

第四百四十五条の八 審判開始の決定をした裁判所は、審理を終結したときは、速やかに、再審の請求について決定をする日(以下この条において「決定日」という。)を定めなければならない。
➁ 審判開始の決定をした裁判所は、決定日を変更することができる。
③ 前条第五項の規定は、決定日について準用する。
第四百四十五条の九 審判開始の決定をした裁判所は、適当と認めるときは、再審請求者、弁護人若しくは検察官の請求により、又は職権で、決定で、終結した審理を再開することができる。

⑼ 再審請求手続の受継

第四百四十五条の十 審判開始の決定があつた場合において、再審請求者が死亡したときは、再審の請求の手続は、中断する。この場合において、第四百三十九条第一項第二号から第四号までに掲げる者は、その手続を受け継ぐことができる。

▶趣旨(平口答弁056

 現行制度の下では、再審請求審の係属中に再審請求者が死亡した場合、再審請求手続は当然に終了することとされています。
 もっとも、他の再審請求権者が再審請求の意思を有している場合には、その者に新たに再審請求をさせるよりも、手続を引き継がせて、それまでの成果を利用して手続を続行することを認める方が、再審請求手続の円滑化、迅速化等に資すると考えられます。
 そこで、本法律案においては、審判開始決定があった場合において、再審請求者が死亡したときは、再審請求手続は中断することとした上で、他の再審請求権者は、当該死亡の日から一か月以内に申立てをしたときは、その手続を受け継ぐことができることとしています。

➁ 前項後段の規定による受継の申立ては、再審請求者の死亡の日から一月以内にしなければならない。
③ 第一項の規定による中断があつたときは、即時抗告又は第四百三十三条第一項の抗告の提起期間は、進行を停止する。この場合においては、第一項後段の規定による受継があつた時から、新たに全期間の進行を始める。
④ 第二項の期間内に同項の申立てがないときは、審判開始の決定をした裁判所は、決定で再審の請求を棄却しなければならない。

⑽ 446条以下の改正内容

改正前 改正後
第四百四十六条 再審の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。 第四百四十六条 審判開始の決定をした裁判所は、審理の結果、再審の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであることが判明したときは、決定でこれを棄却しなければならない。
第四百四十七条 再審の請求が理由のないときは、決定でこれを棄却しなければならない。
② 前項の決定があつたときは、何人も、同一の理由によつては、更に再審の請求をすることはできない。
第四百四十七条 審判開始の決定をした裁判所は、審理の結果、再審の請求が理由のないものであると認めるときは、決定でこれを棄却しなければならない。
② 前項の規定による決定があつたときは、何人も、同一の理由によつては、更に再審の請求をすることはできない。
第四百四十八条 再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。
② 再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
第四百四十八条 審判開始の決定をした裁判所は、審理の結果、再審の請求が理由のあるものであると認めるときは、再審開始の決定をしなければならない。
② 前項の規定による決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
第四百五十条 第四百四十六条、第四百四十七条第一項、第四百四十八条第一項又は前条第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。 第四百五十条 第四百四十四条の二第二項(第一号に係る部分に限る。)、第四百四十六条、第四百四十七条第一項、第四百四十八条第一項又は前条第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

⑾ 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての原則禁止

第四百五十条の二 第四百四十八条第一項の規定による決定〔注:再審開始決定〕に対しては、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、即時抗告をすることができる。

▶附則から本文へ
上記谷川発言:

原則禁止規定をどう設けるかについても、法務省の当初の修正案では本法律案の附則に置くこととされていたところ、最終的に、刑事訴訟法の本則の規定を削除した上で、例外規定を書き起こして規定することとされました。

▶原則禁止の趣旨
平口洋(国務大臣)の答弁

 近時、再審開始決定に対する検察官の不服申立てについて、機械的、形式的に行われており、再審手続の長期化の原因となっているといった指摘がされています。
 もっとも、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止することは、三審制の下で確定した有罪判決について、一回限りの判断で常にやり直すこととなり、裁判の紛争解決機能が損なわれる、あるいは、裁判所による慎重、適正な判断の制度的担保が失われるなどの課題があり、相当でないと考えています。
 これらのことを踏まえ、本法律案においては、再審開始決定に対する検察官の不服申立てのより慎重で抑制的な運用を確保するため、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則として禁止し、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限って不服申立てができることとしています。

➁ 前項の即時抗告を棄却する決定又は前条の即時抗告(第四百四十六条又は第四百四十七条第一項の規定による決定に対するものに限る。)が係属する抗告裁判所の第四百四十八条第一項の規定による決定に対する第四百三十三条第一項の抗告は、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、これをすることができる。
③ 政府は、次の各号のいずれかに該当するときは、遅滞なく、当該各号に定める事項を公表するものとする
一 第四百四十八条第一項の規定による決定(最高裁判所がしたものを除く。)があつたとき その旨並びに検察官が当該決定に対する即時抗告又は第四百三十三条第
一項の抗告をしたかどうか及び当該即時抗告又は抗告をした場合におけるその理由
二 第一項の即時抗告を棄却する決定があつたとき その旨並びに検察官が当該決定に対する第四百三十三条第一項の抗告をしたかどうか及び当該抗告をした場合におけるその理由

▶不服申立ての理由公表の趣旨
上記平口答弁:

これにより、検察官が不服申立てをした場合には、その都度、十分な根拠の有無について国民のチェックを受けることとなります。

第四百五十条の三 第四百四十七条第一項〔注:請求棄却決定〕又は第四百四十八条第一項〔注:再審開始決定〕の規定による決定に対する即時抗告の提起期間は、第四百二十二条の規定にかかわらず、十四日とする。
➁ 前項の即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する第四百三十三条第一項の抗告の提起期間は、同条第二項の規定にかかわらず、十四日とする。

⑿ 調査の結果に基づく決定に対する即時抗告

第四百五十条の四 第四百四十四条の二第二項(第三号に係る部分を除く。)の規定による決定に対する即時抗告が係属する抗告裁判所は、当該即時抗告について調査しなければならない。
➁ 前項の抗告裁判所は、第四十三条第三項の規定にかかわらず、事実の取調べをすることができない。
③ 第一項の即時抗告が理由のあるときは、第四百二十六条第二項の規定にかかわらず、決定で、原決定を取り消して、事件を再審の請求を受けた裁判所に差し戻さなければならない。
④ 前三項の規定は、第一項の即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する第四百三十三条第一項の抗告が係属する抗告裁判所について準用する。

第四百五十条の五 第四百四十五条第二項及び第三項、第四百四十五条の二、第四百四十五条の三、第四百四十五条の七(第一項を除く。)から第四百四十五条の九まで、第四百四十五条の十第四項並びに第四百四十六条から第四百四十八条までの規定は、第四百四十六条、第四百四十七条第一項又は第四百四十八条第一項の規定による決定に対する即時抗告が係属する抗告裁判所について準用する。この場合において、第四百四十五条の八第一項中「再審の請求」とあるのは、「即時抗告」と読み替えるものとする。

➁ 第四百四十五条第二項及び第三項、第四百四十五条の二第一項及び第二項、第四百四十五条の三第一項から第三項まで、第四百四十五条の十第四項並びに第四百四十六条から第四百四十八条までの規定は、前項の即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する第四百三十三条第一項の抗告が係属する抗告裁判所について準用する。

(中略)

5 附則

   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 附則第三条、第十五条及び第十六条の規定 公布の日
二 第一条の規定並びに附則第五条及び第六条の規定 公布の日から起算して二十日を経過した日
三 第二条中刑事訴訟法第百八十八条の二、第百八十八条の三、第百八十八条の六及び第百八十八条の七の改正規定並びに附則第七条の規定 公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
 (検討)
第二条 政府は、この法律の施行後五年ごとに、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、再審の請求の手続における証拠の目的外使用の禁止に関する制度及び検察官が保管する証拠の一覧表に関する制度その他の再審の制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
 (再審の請求の手続の迅速化等)
第三条 再審の請求の手続については、近年における再審の手続に関する諸事情に鑑み、裁判の迅速化に関する法律(平成十五年法律第百七号)第二条第一項の目標が実現されるよう、適正かつ迅速に行われなければならない。
2 再審の請求をした者(検察官を除く。)、弁護人及び検察官は、再審の請求の手続が迅速に行われるよう、裁判所に進んで協力しなければならない。
 (証拠の提出命令による証拠の提出の在り方等)
第四条 近年における再審の手続に関する諸事情に鑑み、第二条の規定(附則第一条第三号に掲げる改正規定を除く。附則第六条第一項に同じ。)による改正後の刑事訴訟法(以下「第二条改正後刑事訴訟法」という。)第四百四十五条の二第一項の規定による決定については、再審の請求の理由に関連すると認める証拠の範囲が不当に狭くならないように留意されなければならない
2 近年における再審の手続に関する諸事情に鑑み、従来行われてきた再審の請求の手続における運用上の措置としての裁判所による検察官に対する勧告であって任意での証拠の提出又は開示に係るもの及び検察官による任意での証拠の提出又は開示は、事案に応じ、適切に行うものとする。
 (再審開始の決定に対する不服申立て等に係る審理期間)
第五条 近年における再審の手続に関する諸事情に鑑み、再審開始の決定に対する不服申立てであって附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(以下この条及び次条において「第二号施行日」という。)以後にされたもの又は当該決定に対する不服申立てに係る裁判所の決定に対する不服申立てであって第二号施行日以後にされたものについては、それぞれ事件が受理された日から一年以内にその係属する裁判所の決定がされるように努めなければならない。
(以下略)

▶附則については、衆議院で修正があった。(衆議院法務委員会。R8/5/26付託。R8/6/12議決。)

修正 新旧対照条文

改正に至る経緯

1 議員立法の動き

2024年3月 再審法改正に向け超党派の国会議員連盟結成

2025年2月 議員立法の提出を決める

2025年6月 議員立法の提出

2 法務省の動き

2025年2月 諮問

2025年4月 法制審議会での審議開始(~2026年2月2日まで18回開催)

2026年2月2日 法制審議会が法務省が示した要綱案を賛成多数で取りまとめる

▶2月2日付けのニュース(朝日新聞:再審見直し、法制審案まとまる 弁護士ら「冤罪救済を軽視」と反対

法務省は4月にも政府法案を閣議決定する方針だが、その内容は今後の与党審査や国会審議で修正される可能性がある。

2026年2月12日 法制審議会が要綱を平口洋法相に答申

▶2月2日付けのニュース(日経新聞:再審見直し法制審答申、法案提出へ 証拠開示範囲など与党内にも異論

法務省は18日召集予定の次の国会への法案提出を目指す。

平口法相(左)と佐伯仁志法制審会長(右) 出典は上記日経

2026年3月下旬~ 自民党内で会合が開かれ、政府案への反対の声が出る(自民党法務部会・司法制度調査会合同会議)

▶3月30日付けニュース(NHK「再審制度見直しに向け 政府は4月にも法改正案を国会提出へ」)

自民党内では柴山・元文部科学大臣が「再審の手続きが長引く端緒が検察官による不服申し立てであることは紛れもない事実だ」と述べるなど、一部の議員が政府案に盛り込まれていない、再審開始の決定に対する検察による不服申し立てを禁止する規定を設けるよう強く主張しています。

▶4月3日ニュース(日テレNEWS〔YouTube〕【再審制度の改正案を巡り】自民党内で異論相次ぐ 再審開始決定への検察官の不服申し立てを禁止しない内容に

出典:日テレNEWS

2026年4月9日 政府が法案の見直す方向で調整に入る

▶時事通信「再審見直し、来週にも修正案 政府、異例の国会提出先送り

政府は9日、再審制度見直しのための刑事訴訟法改正案について、自民党内の異論を踏まえた修正案を来週中にも同党に提示する方向で調整に入った。週内に予定していた国会提出は先送りした。再審開始決定に対する検察官の不服申し立て(抗告)に一定の制限を設ける修正を検討しているが、同党の了承を得られるかは不透明だ。

2026年4月14日 修正案を自民党に提示することが明らかに

▶朝日新聞「再審見直し、全9項目の修正案が判明 自民に提示へ、実効性は不透明

刑事裁判をやり直す再審制度見直しのための刑事訴訟法改正案について、政府がまとめた修正案の全容が判明した。15日の自民党会合で示す。再審開始決定に対する検察の不服申し立て(抗告)を禁止しない一方、裁判所が抗告の是非を審理する期間を「1年以内」に制限するなど、9項目の修正を法案の付則に盛り込んだ。

⇨9項目の修正案が附則に盛り込まれることに。

2026年5月14日 修正案を自民党が了承

▶自民党HP「【再審制度、戦後初の見直しへ】刑事訴訟法改正案を党内了承

5月14日、わが党は再審制度を見直す刑事訴訟法改正案を了承しました。
…当初案では見直し規定がありませんでしたが、党内議論を重ねた結果、現行法で検察官による不服申し立てを認めている規定を削除
その上で、「再審開始決定が取り消されるべき十分な根拠がある場合」に限り、高裁・最高裁への不服申し立てを可能とする新たな例外規定を設け、「原則禁止」を本則に明記する形となりました
また、政府には、検察官抗告を行った場合、その理由等を遅滞なく公表する規定も盛り込まれました
さらに、法務省案では当初、再審請求を早期に選別する手続き(スクリーニング規定)が設けられていましたが、「必要な審理まで門前払いにつながりかねない」との懸念が相次ぎ、議論を経て棄却要件は削除されました
加えて、審理の迅速化に向け、再審開始決定に対する不服申し立ての是非について、裁判所が「1年以内」を目途に審理を行うことを付則に明記
あわせて、改正法施行後の見直しについても、「5年後」ではなく「5年ごと」に検討を行い、必要な措置を講ずるとの規定が新設されました。

2026年5月15日 閣議決定⇨国会に法案提出

▶TBS「【速報】再審制度見直しの刑事訴訟法改正案を国会に提出

2026年6月16日 衆議院通過

▶日経「再審制度の見直し法案、衆院通過 検察側の証拠開示を義務化

2026年7月17日 参院通過⇨成立

▶NHK「再審制度見直し 改正刑事訴訟法が参議院本会議で可決・成立

危険運転致死傷 R2、R8改正を中心に

改正の経緯

「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」第1回会議(令和6年2月21日)「配布資料1 危険運転致死傷罪等の改正の経緯を参考に作成。

平成13年改正(平成13年12月25日施行) 刑法208条の2

危険運転致死傷罪 創設

法定刑は、致傷の場合10年以下の懲役、致死の場合1年以上の有期懲役

行為は、以下のとおり。

➀アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
➁その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑤赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

平成16年改正(平成17年1月1日施行) 刑法208条の2

法定刑の引き上げ。

致死:20年以下に引き上げ。

致傷:15年以下に引き上げ。

平成19年改正(平成19年6月12日施行) 刑法第211条2項

自動車運転過失致死傷罪 創設

法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

平成25年改正(平成26年5月20日施行) 自動車運転死傷処罰法2条

自動車運転死傷処罰法 創設

⑥通行禁止道路の行為類型 追加

法定刑は、致傷の場合15年以下の懲役、致死の場合1年以上の有期懲役

令和2年改正(令和2年7月2日施行) 自動車運転死傷処罰法2条

以下の類型 追加(あおり運転類型)

⑦車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為(同条第5号)
⑧高速自動車国道等において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為(同条第6号)

令和8年改正(令和8年7月21日施行) 自動車運転死傷処罰法2条

⑨飲酒類型:数値基準の導入(アルコールの影響による正常な運転が困難な状態に一律であたる)

⑩高速度類型:法定速度を50km/h又は60km/h超過する場合が危険運転になる。

⑪殊更滑走類型:ドリフト走行・ウィリー走行が危険運転になる。

危険運転致死傷罪

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。

アルコール影響正常運転困難状態(1号)

条文

一 アルコール影響正常運転困難状態身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為

▶令和8年改正で導入(令和8年7月21日施行)

▶数値基準導入の趣旨

⇨「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」について、最高裁は、総合考慮して判断する立場。したがって、明確性に問題があった。そこで、この数値であれば、一律に「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」に当たるだろうという数値を定めて、判断の明確化を図ろうとした。

「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との構成要件の該当性の判断は実務的に困難な作業であり、判断のばらつきが生ずる可能性も否定できないことから、これを明確化して適切な運用を確保する(自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会「取りまとめ報告書」4頁・令和6年11月、法改正Q&A・法務省・Q3)

▶数値基準の意義

・数値基準を満たす状態で自動車を走行させる行為を一律に危険運転致死傷罪の対象とする。(法改正Q&A・Q2)

・数値基準に満たない場合でも、個別具体的な事情に照らし、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であると認められる場合がある。(法改正Q&A・Q9)

▶「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」

最高裁判例によれば、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい、例えば、アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態もこれに当たるとされており、これに当たるか否かの判断については、事故の態様のほか、事故前の飲酒量及び酩酊状況事故前の運転状況事故後の言動飲酒検知結果等を総合的に考慮すべきとされています。(法改正Q&A・Q10)

※最高裁決定平成23年10月31日(刑集65巻7号1138頁)

 刑法208条の2第1項前段における「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であったか否かを判断するに当たっては、事故の態様のほか、事故前の飲酒量及び酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等を総合的に考慮すべきである。(中略)

 刑法208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが、アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も、これに当たるというべきである。そして、前記検討したところによれば、本件は、飲酒酩酊状態にあった被告人が直進道路において高速で普通乗用自動車を運転中、先行車両の直近に至るまでこれに気付かず追突し、その衝撃により同車両を橋の上から海中に転落・水没させ、死傷の結果を発生させた事案であるところ、追突の原因は、被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間終始前方を見ていなかったか又はその間前方を見てもこれを認識できない状態にあったかのいずれかであり、いずれであってもアルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態にあったと認められ、かつ、被告人にそのことの認識があったことも認められるのであるから、被告人は、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させ、よって人を死傷させたものというべきである。

 

薬物影響正常運転困難状態(2号)

条文

二 薬物影響正常運転困難状態薬物の影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為

 

進行制御困難な高速度(3号)

条文

三 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

▶主な裁判例

➀東京高裁判決平成22年12月10日(高裁刑集平成22年105頁)

カーブで時速90キロ~100キロ出した事案で、危険運転を認めた。

 刑法208条の2第1項後段の「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいうと解される。これを本件についてみると、被告人車の速度は、時速約90キロメートルから100キロメートルという本件カーブの限界旋回速度を超過してはいないが、ほぼそれに近い高速度であったものである。また、本件事故は、被告人車が高速度で本件カーブに進入したことに加えて、わずかにハンドルを右に切りすぎて内小回りとなったことによって発生しているが、このハンドル操作のミスの程度はわずかであり、しかも、本件では飲酒や脇見等の事実もなく、被告人がそのようなミスをしたのは、ひとえに、自車が高速度であったためであると考えられる。加えて、本件カーブを被告人車と同じ方向に進行する48台の車の速度を調査したところ、平均速度は時速約53キロメートルで、最高でも時速約71キロメートルであったのであり(捜査報告書・原審甲22)、被告人車の速度は、指定最高速度はもちろんのこと、他の車両の実勢速度と比較しても相当程度速かったといえる。以上の点にかんがみると、被告人車の速度は、本件カーブの限界旋回速度を超過するものではなかったが、ほぼそれに近い高速度であり、そのような速度での走行を続ければ、ハンドル操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度であったというべきであるから、進行を制御することが困難な高速度に該当すると認められる。

➁名古屋高裁判決令和3年2月12日(高裁刑集令和3年467頁)

直線道路で時速146キロ出した事案で、危険運転を認めず。

⇨さすがにおかしいだろうということで、改正のきっかけになる。⇒4号の新設。

 (注:法制審議会刑事法部会)第3回会議までの立法担当者側の説明及び参加委員からの意見や疑問といった議論状況も踏まえ、かつ、立法担当者側は、一方で駐車車両もある意味で道路のカーブと同視できると述べていることとの対比からすれば、個々の歩行者や通行車両は進行制御困難性判断の考慮対象としては想定していない、すなわち、「道路の状況」という要素の中に歩行者や走行車両は含まれないとの考えに立っていると理解するのが自然である。(中略)
 これまで述べてきた立法者意思の探索結果に加え、罪刑法定主義の要請である明確性の原則の堅持、危険運転致死傷罪の創設趣旨との整合性等の検討を踏まえると、法2条2号に関する原判決の解釈は是認できない。
 進行制御困難性の判断要素の一つである「道路の状況」という要素に、他の走行車両は含まれないとの当裁判所の解釈によれば、被害車両を含む他の走行車両の存在は判断対象外となる。したがって、他の走行車両によって自車の進路の幅やルートが制限されたか否かは問題となり得ない。

 本件の事故状況についてみると、被告人は時速約146kmの高速度で走行していたため、被害車両を発見した時点で、被害車両との車間距離が停止可能距離を既に割り込んでおり、被害車両との接触を回避することは絶望的な状況であった。被告人は、自車が被害車両付近に到達する頃までには被害車両が第3車線方向へ進出するであろうと予想し、ハンドル・ブレーキ操作で被害車両との接触を回避しようと試み、それまで走行していた第3車線から第2車線に車線変更し被害車両の後方を通過しようとしたものの、もともと回避困難な状況であったことに加えて、被害車両が被告人の予想と異なり、第2車線にとどまっていたこともあいまって、同車線上で衝突したものである。(中略)結局のところ、本件では、被告人車両が車線変更をしたことはあっても、衝突に至るまでの間に自車の進路から逸脱したことは証明されていたとはいえない。すなわち、原審検察官が公訴事実の中で主張していた、被告人が自車の進行を制御できなかった事実は証明されていなかったといわざるを得ない。また、衝突時の被告人車両の速度、被告人車両の構造・性能、本件道路の状況などを踏まえてみても、被告人の行為が、法2条2号の進行制御困難高速度に該当するとはいい難く、本件で危険運転致死傷罪の成立を認めることは困難である。

交通対処困難な高速度(4号)

条文

四 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ当該イ又はロに定める速度以上の高速度その他道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ当該イ又はロに定める速度に準ずるものに限る。)で自動車を運転する行為
イ 最高速度(道路交通法第二十二条第一項の規定によりこれを超える速度で進行してはならないこととされている最高速度(原動機付自転車を運転する場合にあっては、同法第三条に規定する普通自動二輪車の最高速度)をいう。以下この号において同じ。)が六十キロメートル毎時以下である場合 最高速度を五十キロメートル毎時超える速度
ロ 最高速度が六十キロメートル毎時を超える場合 最高速度を六十キロメートル毎時超える速度

▶令和8年改正で導入(令和8年7月21日施行)

原動機付自転車=「同項第十号に規定する原動機付自転車」
※これも令和8年改正で追加

▶改正の趣旨

同号の「進行を制御することが困難」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態と解されているところ、「道路の状況」として他の通行車両や歩行者の存在を考慮できるかについて消極的な解釈を示す裁判例があるため、常識的に見て極めて危険性の高い高速度運転であっても、実際に進路を逸脱していない事案においては同号の適用が否定される場合がある(取りまとめ報告書)

▶3号との違い

⇨3号は、進路に沿って運転できないほどの高速度(進行制御困難性)

 4号は、他の車両や歩行者との衝突を回避できないほどの高速度(対処困難性)

○第6回会議のヒアリングにおいて、高速度運転には、走行速度が速くなるほど停止距離が長くなるため、ブレーキ操作によって衝突を回避することが困難となる危険性や、走行速度が速くなるほどハンドル操作による自動車のコントロールが困難となるため、ハンドル操作によって衝突を回避することが困難となる危険性があるといったことが明らかになり、こうした知見を踏まえると、著しい高速度で自動車を走行させる行為には、他の車両や歩行者との関係で安全に衝突を回避することが著しく困難となる、すなわち、道路や交通の状況に応じて、人の生命又は身体に対する危険を回避するための対処をすることが著しく困難となるという危険性(対処困難性)があるといえる
対処困難性は、法第2条第2号が捉える進行制御困難性とは質的に異なる危険性であるから、高速度運転に起因する対処困難性を捉える危険運転致死傷罪の新たな類型を設けることが考えられる
といった意見が示された。

221回参議院法務委員会でも同様の回答がある。(リンク

○政府参考人(佐藤淳君) 二条四号と現行法の二条二号の関係性という理解でお答えしてよろしいでしょうか。
 現行法第二条第二号におけるその進行を制御することが困難な高速度については、一般に、速度が速過ぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいうと解されておりまして、これは、高速度に運転、起因する危険性のうち、進路保持の困難性を捉えるものであると考えられております。
 これに対しまして、今回の改正法の第二条第四号は、道路や交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難となるという、この従来の進行制御困難の類型とは異なる観点から高速度運転の危険性を捉えるものとして、別の類型として定めるものでございます。
 もっとも、一つの行為が両方に当たり得るということもあるかと思います。その上で、どちらが量刑が重いか、法定刑はもちろん一緒でありますが、そこは、類型だけに、どちらが類型かというよりも、それ以外に、被害者の数であるとかけがの程度であるとか、それ以外の個別の情状などによるところでありまして、一概に比べることは困難ではないかというふうに思うところでございます。

未熟運転(5号)

条文

五 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

 

曲芸的な走行行為(ドリフト走行・ウィリー走行)(6号)

条文

六 殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為

▶令和8年改正で導入(令和8年7月21日施行)

▶大阪高判平成27年7月2日

⇨ドリフト行為を「制御困難な高速度」で処罰しなかった事例

⇨新設する必要があるということになった。

法制審議会でも言及された裁判例(法制審議会第9回27頁・今井)

そして,本件では,証拠上,被告人がドリフト走行を開始した後に被告人車両の走行速度が最も速くなったのは,〔7〕地点付近の時速約46kmであり,それ以前には,時速40kmを相当下回っていたと認められるところ,この程度の走行速度は,前認定のような,本件事故当時の周囲の道路状況や交通状況に照らしても,それ自体,改正前の刑法208条の2第1項後段にいう「その進行を制御することが困難な高速度」とは認められない

⇨時速40キロ・46キロくらいでは、「高速度」ではない。

被告人が,ドリフト走行をするため,あえて上記のように重大な危険を生じさせるべき運転操作を行った場合,被告人車両の速度の点のみを切り離して,「高速度走行」といえるためには,原判決が説示するとおり,被告人車両が制御不能に陥った主たる原因が,その速度の点にあったことを要すると解すべきところ,本件では,同車両が制御不能に陥るまでの速度は,前認定のように,時速40kmを相当下回っていたのであるから,この速度自体が,同車両の制御を不能にする主たる要因であったとは到底認められず,同車両の制御が不能になったのは,被告人が上記のような特殊な運転方法をあえて選択し,しかも,その運転操作を誤ったことに起因するものであったと認められる。

⇨制御不能となった主要因は、速度ではない。特殊な運転操作の選択と操作ミス。

もとより,本件のようなドリフト走行や被告人が現に行ったような特殊な運転方法が,それ自体,改正前の刑法208条の2が定める危険運転行為に匹敵するほど極めて危険なものであることは明らかであるが,同条は,そのような運転方法を危険運転行為としては規定していないから,罪刑法定主義の見地から,本件運転行為について危険運転致傷罪に問う余地はないといわざるを得ない。

⇨ドリフト走行は危険運転にしていいと思うけど、法律がないから処罰できない。

妨害運転(加害者車両が高速度な場合)(7号)

条文

七 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

妨害運転(被害者車両が高速度な場合)(8号)

条文

八 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

▶令和2年改正で導入(令和2年7月2日施行)

▶本号の趣旨(諮問109号)

⇨7号は、加害者車両が高速度で走っていなければ適用できないのが問題。

 2条第4号の危険運転致死傷罪が適用されることがありますが,同号に掲げる行為は,「人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と規定されており,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行して「著しく接近」することが要件とされているため,例えば,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方に進入して自車を停止し,被害者車両が追突するなどして人が死傷したとしても,「著しく接近」したときの加害者車両の速度が「重大な交通の危険を生じさせる速度」との要件を満たさなければ,同号に掲げる行為には該当しないこととなります。
 しかしながら,こうした行為は,被害者車両の走行速度や周囲の交通状況等によっては,重大な死傷事故につながる危険性が類型的に高く,現行の危険運転致死傷罪に規定されている行為と同等の当罰性を有するものと考えられます。
 そこで,自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に罰則を整備する必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。https://www.moj.go.jp/content/001317351.pdf(5頁・吉田幹事発言)

▶同号の存在意義

⇨加害者車両が高速度でなくても危険運転として処罰できる。

従来の現行法の第4号〔現7号〕が,言わば,加害者車両が速いことで危険が生ずる場合であるのに対して,要綱(骨子)の一〔現8号〕は,今度は加害者車両は遅くても,被害者車両の方が速いことで危険が生ずる場合だということで,現行法の規定の足らざるところを補う形の新しい規定になるという,こういう理解だと思います。(同上9頁・井田部会長発言)

▶車の通行を妨害する目的

⇨通行妨害を積極的に意図すること

※被害者車両の認識がなくても、目的は肯定され得る。ただし、認識は故意で必要。

「通行を妨害する目的」とは,相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置を採らせるなど,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいいます。(同上6頁・吉田幹事発言)

 特定の車の通行を妨害する意図までは必要ないと考えられます。
 そのため,例えば,加害者が自車の後方を走行している車の存在を認識していない場合であっても,そのような車がいるのであれば嫌がらせをしようと考えて急停止をする場合には,通行を妨害する目的の要件を満たすこととなると考えています。(同上14頁・吉田幹事発言)

▶故意

故意についてですけれども,要綱(骨子)の一の罪については,行為の客観面である「走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)
の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転すること」が故意の対象となります。したがって,加害者は,実行行為の時点で,走行中の車を認識している必要がありますが,その認識の程度としては,通常の故意と同じく,未必的なもので足りると考えております。(同上14頁・吉田幹事発言)

▶「車」

「車」とは,四輪以上の自動車,自動二輪車,原動機付自転車,軽車両等,道路上
を通行する車全般を意味します。(同上6頁・吉田幹事発言)

▶7号と違い、「人又は車」ではなく「車」となっている理由

⇨人は、「重大な交通の危険が生じることとなる速度」を出せないから。

「走行中の車」の後に括弧を付けておりまして,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行しているものを妨害するということとしています。そこで考えている危険性というのは,あるいは妨害の対象というのは,重大な交通の危険が生じることとなる速度を超えるような速度が出るものということで,そういう意味として,車という形で規定させていただいているところでございます。(同上17頁・保坂発言)

▶「重大な交通の危険が生じることとなる速度」

⇨ぶつかったり、よけたりすると大事故になる速度

「重大な交通の危険が生じることとなる速度」の意義につきましては,通行妨害目的を持つ加害者車両が,被害者車両の前方で停止するなど,被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転した場合に,被害者車両が加害者車両と衝突すれば大きな事故を生じることとなると一般的に認められる速度,あるいは,被害者車両が加害者車両の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度を意味します。(同上6頁・吉田幹事発言)

▶「その他著しく接近することとなる方法」

「その他著しく接近することとなる方法」とは,被害者車両の走行速度や位置関係等を前提とした場合に,加害者の運転行為がなされることにより,両車両が著しく接近することとなる方法をいいます。例えば,被害者車両と同一の車線の前方を走行する加害者車両が急減速すること,第一通行帯に停止していた加害者車両が,第二通行帯を走行してきた被害者車両が自車を追い越していく寸前に発進して,自車前部を被害者車両が走行する第二通行帯にはみ出させることなどが,この方法に該当すると考えています。(同上6頁・吉田幹事発言)

▶「重大な交通の危険を生じることとなる速度」(本号)≠「重大な交通の危険を生じさせる速度」(7号)

⇨被害者車両が「危険を生じさせる」という表現はおかしいから。

第4号〔現7号〕の場合には,加害者側がそれを惹起するという立場にありますので,重大な交通の危険を「生じさせる」速度と書いているのに対し,要綱(骨子)の一〔本号〕においては,被害者車両は,通常の走行をしてきたところ,加害者によって,そのような危険な事態に陥らせられるという立場にあり,被害者側が危険を「生じさせる」のではなく,加害者の行為に起因して結果として,被害者の速度によって重大な交通の危険が生じることとなりますので,そのニュアンスの違いを表すものとして,若干文言を変えているものでございます。(同上10頁・吉田幹事発言)

▶7号の「接近し」と違い、「接近することとなる方法で」(本号)となっている点

⇨被害者車両が避けたりして、実際に接近しないこともあるから。

 この第4号(現7号)は,加害者車両が自車の有する一定程度以上の速度によって被害者車両に接近していくという類型でございまして,その危険性は,加害者車両が実際に被害者車両に著しく接近することによって生じるというものですので,実際に被害者車両に著しく接近するに至らなかった場合には,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いとはいい難いということで,そのような,「著しく接近し」との要件が規定されているものと考えられます。

 これに対して,要綱(骨子)の一〔本号〕におきましては,若干文言に違いがあり,「著しく接近することとなる方法」で走行することが要件として規定されております。この要綱(骨子)の一は,被害者車両の有する速度が一定程度以上であるがために,加害者車両が,被害者車両に接近していくという類型でございまして,言わば加害者のコントロール下にない被害者車両が,その速度ゆえに加害者車両に近付いていくという関係にございます。
 そうした行為の特質等に鑑みますと,通行妨害目的での加害者車両の運転行為が行われた場合には,実際に被害者車両に著しく接近する前の段階であっても,そのまま走行すると著しく接近することとなるのであれば,被害者車両としては急ブレーキを踏むなどして,加害者車両との衝突を回避できない可能性が高く,重大な死傷結果を生じる危険性が類型的に高いと考えられますし,また,結果的に加害者車両に著しく接近しなかったとしても,被害者車両が衝突を回避しようとして,ハンドルを急転把するなどして,ガードレールに激突するなど,死傷結果が生じる危険性が類型的に高いと考えられます。
 こうしたことを考慮して,要綱(骨子)の一におきましては,現行法の第2条第4号とは若干違う表現を用いて,「著しく接近することとなる方法で」との要件を定めることとしているものです。(同上11頁・吉田幹事発言)

▶停止

⇨走っているところから止まること。停止し続けることは当たらない。

 停止とは,この罪が自動車の運転行為の危険性に着目して特に重い処罰をするものであることから,運転行為としての停止をいうものと考えておりまして,言い換えますと,走行している状態から止まる行為を意味すると考えております。したがいまして,停止を続けることは,運転行為としての停止には当たらないものと考えております。

 例えば,加害者が自分の車を停止させた後,そのまま停止をずっと続け,その結果,しばらく経ってから,後続の被害者車両がそこに追突してきて,人が死傷した場合(中略)加害者車両は,要綱(骨子)の一にいう「前方で停止」には当たらないものと考えております。したがいまして,御指摘のような場合には,運転行為としての停止は,前方という要件を満たしませんので,ここでいう実行行為には該当せず,要綱(骨子)の一の罪も成立しないと考えているところでございます。(17頁・吉田)

妨害運転(高速道路・自動車専用道路上)(9号)

条文

九 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為

▶令和2年改正で導入(令和2年7月2日施行)

▶趣旨

⇨高速道路で相手を停止させると、その後ろから来た車に追突される危険が高い。

高速自動車国道や自動車専用道路においては,自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されており,加害者車両が,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方で停止するなど被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転し,被害者車両を停止又は徐行させた場合には,そのような道路を走行中の他の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置を採ることが通常困難であるため,後続の車両が追突するなどして死傷の結果が発生する危険性が類型的に高いことから,こうした行為を実行行為として捉え,よって人を死傷させた場合も,危険運転致死傷罪の対象としようとするものです。(同上6頁・吉田幹事発言)

▶本号が想定している適用場面

 加害車両 ← 被害車両 ← 後続車

 (停止)    (停止)    (衝突)

この二の罪が予定しているのは,止まっただけでは,その時点では危険はまだ生じて
いなくて,その後,後続車が来ることによって危険が現実化する,要するに,止まってからのタイムラグが予定されているという趣旨です(第2回審議会12頁・保坂)

▶車ではなく「自動車」の通行を妨害する目的とした理由

自転車等以外が高速自動車国道又は自動車専用道路を走行することは想定されないことから,通行妨害目的について,「自動車の通行を妨害する目的」としております

▶故意

行為の客観面である「高速自動車国道又は自動車専用道路において,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせること」が故意の対象となります。したがいまして,加害者は,実行行為の時点で,走行中の車を認識している必要がございますし,その認識の程度としては,通常の故意と同じく,未必的なもので足りると考えております。(同上14頁・吉田幹事発言)

▶高速自動車国道

高速自動車国道法の第4条第1項に規定する道路をいいまして,例えば,東名高速道路,名神高速道路,常磐高速道路等が該当いたします。(20頁・吉田)

▶自動車専用道路

道路法の第48条の4に規定する自動車専用道路をいいまして,例えば,首都高速道路,阪神高速道路等がこれに該当いたします。

▶8号と9号の関係

⇨重畳関係。8号は被害者車両が高速度である必要があるが、9号は加害者車両・被害者車両ともにゆっくりでも成立する。

 まず前提として,相互に排斥する関係にはありませんので,二というのは,一に当たらない場合にしか適用できないものではないということを前提に御説明したいと思います。
 その上で,どういう事例が考えられるかということですけれども,例えば,高速自動車国道のサービスエリアの駐車場で,2台の車がそれぞれ駐車場から出発しようとする際にトラブルになって,両車両とも,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らない,ゆっくりした速度で,そのままトラブル状態で本線車道の方に向かって,前後に連なって走行していったとします。
 そのまま本線車道に進入していって,そのうちの一方の車両,これが加害者側の車両ということになりますが,これがその後も,あえて加速せず,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らないまま,他方の車両である被害者車両の前を走行し続けて,この被害者車両もまた,重大な交通の危険が生じることとなる速度に至らない,ゆっくりした速度で走行していたところ,この加害者車両の運転手が通行妨害目的で急ブレーキを踏んで停止したために,その後ろにいた被害者車両の方もブレーキを踏んで,加害者車両に著しく接近させられて停止し,そこに後方から時速80キロメートルで走行してきた第三者車両が追突して,被害者車両の運転手等が死亡した,というようなケースが考えられると思います。

〇7号~9号の違い

  加害者車両 被害者車両
7号 重大な交通の危険を生じさせる速度 ゆっくりでも可
8号 ゆっくりでも可 重大な交通の危険が生じることとなる速度
9号 ゆっくりでも可 ゆっくりでも可

殊更赤信号無視(10号)

条文

十 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

通行禁止道路(11号)

条文

十一 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

▶参考資料:第4回会議(平成24年12月18日)

▶重大な交通の危険を生じさせる速度

⇨ぶつかったり、よけたりすると大事故になる速度

具体的な当てはめは,その証拠関係,事実関係によるところでございますけれども,この言葉といいますのは,現行の危険運転致死傷罪におきます通行妨害目的の類型ですとか,あるいは赤色信号の殊更無視の類型に用いられている言葉でございます。その用語と同じと考えており,例えば通行禁止道路を進行した場合に,自分の車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度,あるいはそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度ということを基準として,当てはめをすることになるのだろうと考えておるところでございます。 (上記第4回9頁・保坂)

▶通行禁止道路は政令で指定されるが、以下のものが一見して分かりやすい。

第7回会議参考資料より(https://www.moj.go.jp/content/000107458.pdf

同上

 

準危険運転致死傷罪

条文

第三条 アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、アルコール影響正常運転困難状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、薬物影響正常運転困難状態に陥り、人を死傷させた者も、同様とする。

▶令和8年改正で書き方に変更あり(二文になった)

2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

▶参考資料:第4回会議(平成24年12月18日)~第7回会議

▶本条の意義

 危険運転致死傷罪とこの「二」の罪との違いといいますのは,正常な運転が困難な状態であることの認識の要否,必要か否かということでございます。
  この「二」の罪が適用される具体的な場面として想定されるのは,正常な運転が困難な状態であることの認識がない場合として,例えば,運転開始当初は,アルコールの影響で注意力や判断力が散漫な状態,先ほど御説明した正常な運転に支障を生じるおそれがある状態ではあったけれども,その後,仮睡状態になって正常な運転が困難な状態に陥ったものの,その仮睡状態で正常な運転が困難な状態の時点では,その状態にあることの認識を有しない場合,あるいは,同様に薬物の場合で言いますと,運転開始当初は薬物の影響で眠気を催したり,注意力,判断能力が不十分になっていて,運転操作にも支障を来していたということでございましても,薬物の薬理作用が進んで,急に意識を喪失して正常な運転が困難な状態に陥ったものの,その困難な状態に陥った時点では,その状態にあることの認識を有しないという場合が考えられるところでございます。

 さらに,正常な運転が困難な状態にあることの認識を立証できない場合,例えば,正常な運転が困難な状態で人を死傷させたけれども,被疑者,被告人が正常な運転が困難であったこと,それを基礎付けるような事実の認識を否認して,ほかの証拠ではその認識を有していたことを合理的疑いを超えて立証することができない,他方で,被疑者,被告人が運転を開始した,あるいは運転の時点において,アルコールの影響により注意力,判断力が減退したことと,正常な運転に支障を生じるおそれがある状態であることについては認識していたことが立証できるという場合,そういう場合にも,この「二」の罪というのが適用され得ると考えられるところでございます。(13頁・保坂) 

▶「その走行中に正常な運転に支障を生ずるおそれがある状態で」

これにつきましては,アルコールの関係で言いますと,極めて僅かな量を摂取した場合についてもこの罪の対象とすることは適当ではないということのほか,そもそも健康人の通常の血液中にも常時一定濃度のアルコールが保有されていて,単にアルコールを身体に保有しているということではやはり足りないのだろうということ,薬物の関係で言いますと,薬物の薬理作用というのが様々あるということ,そして,病気の関係につきましては,発作等が生じない場合には自動車の運転に支障が生じないというものもあることから,そこを限定する趣旨で,「正常な運転に支障を生じるおそれがある状態」という要件が必要だと考え,かつそのことを認識しているという場合に限ってこの罪の対象として処罰するという規定にしてございます。(上記第4回11頁・保坂)

▶アルコール又は薬物の影響による「正常な運転に支障を生ずるおそれがある状態」

 まず,アルコールですとか薬物の影響の場合,この今申し上げた状態といいますのは,実行行為時点の運転者の心身の状態をいうと考えております。その状態といいますのは,危険運転致死傷罪の「正常な運転が困難な状態」すなわち,道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態であるということになりますが,そこまでは必要がないものの,自動車を運転するのに必要な注意力,判断能力あるいは操作能力が,そうでないときの状態と比べて相当程度減退して,危険性のある状態にあるということが必要であると考えております。
  更に具体的に言いますと,アルコールの影響による場合を例にとりますと,道路交通法の酒酔い運転罪の構成要件にある「正常な運転ができないおそれがある状態」ということにまで至る必要はないものの,酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有している状態であることが必要なんだろうと考えております。(同上11頁)

▶病気の影響による「正常な運転に支障を生ずるおそれがある状態」

「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といいますのは,その実行行為時点における心身の状態というのは同じなのですが,その内実,中身といいますのは,てんかんの発作により意識喪失に陥るという場合を例にしますと,運転開始当初はもとより,走行中のある時点で発作によって意識喪失に陥るなどして,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力というものが相当程度減退して,危険性のある状態になり得る具体的なおそれがあるということが必要になると考えております。この状態に対応する認識につきましては,先ほど申し上げた,運転開始当初はもとより,将来,そのような状態になり得る具体的なおそれがあるということの認識が必要になろうかと考えております。

 通常の場合には,そのような病気であり,そのような症状であることの認識であれば,一般的にはそのようなおそれは認められるでしょうし,そのような病気であり,そのような症状であることの認識であれば,故意としても足りるのではないかと考えております。
  したがいまして,更にややブレークダウンしますと不正確になる面は否めないかもしれませんが,免許が取れないような病状であるということを,例えば医師などからの指摘で認識している方であれば,一般的には,ここでいうところの正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であるといって構わないのではないかと考えております。(14頁・上冨)

▶「アルコールの影響により」「薬物の影響により」

この点は,専らアルコール又は薬物の影響によるということを要求するものではございませんで,危険運転致死傷罪の「アルコール又は薬物の影響により」という要件と同様に,アルコール又は薬物とほかの要因が競合した場合も,これは含まれると考えております。 (同上12頁)

▶「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれのある状態」に関する認識

 アルコールの影響を例にしますと,具体的なアルコールの保有量についてまでの認識を必要とするというわけではございませんが,その実行行為時点での運転者の状態を基礎としまして,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力が相当程度減退して,危険性のある状態にあるという認識が必要であると考えております。
  なお,具体的に言いますと,通常の一般人を基準とした認識としまして,自動車を運転するために必要な注意力等がそうでないときの状態と比べて相当程度減退する程度の,すなわち酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有しているということの認識が必要になろうと考えております。 (同上12頁)

▶「正常な運転が困難な状態に陥り」についての故意は不要

因果経過としまして,客観的に「正常な運転が困難な状態に陥り」ということが必要になります。これは実行行為としてのものではございませんで,このような状態に陥ったことについての故意は必要がないという規定にしてございます。

実行行為としては,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,その「よって」以下のところは,正常な運転が困難な状態に陥っているというところは因果の経過として規定しているということでございます。仮にこの因果の経過としての正常な運転が困難な状態に陥ったということを要件として規定しないとすると,およそアルコール等の影響とは関係のない,あるいは過失によって事故が起きたというような場合も対象となってしまうという不具合があろうかということで,その成立範囲を絞り込むという意味で,このような因果経過を要件として加えたということでございます。(17頁・保坂) 

▶原因において自由な行為との関係

いわゆる原因において自由な行為の考え方の問題と,今回の構成要件の定め方というのは,直接関係はないんだろうと思っております。今,保坂幹事のほうから御説明したとおり,客観的な因果の経過としてそのような状態になったことが必要だということを言っているだけであって,そのときの責任能力の有無といった観点からの構成要件の定め方をしているわけではございませんので,その責任能力の問題についての説明としての,いわゆる原因において自由な行為といった考え方と直接つながるという理解をする必要はないのだろうと思っております。(17頁・上冨)

アルコール等影響発覚免脱罪

条文

第四条 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の拘禁刑に処する。(第4回19頁・保坂)

▶本条の趣旨

救護義務違反の罪を犯してでも危険運転致死傷罪の適用を免れようとする者が生じやすくなるのではないかという,いわゆる逃げ得の状況が生じていることは相当でなく,これを是正して,当罰性の高い行為に対して,その適正な処罰が可能となるように設けるという趣旨でございます。(同上) 

▶保護法益

危険,悪質な運転行為を防止し,人の生命身体を守るということが主たる保護法益であると考えております。また,この罪は,更にアルコール又は薬物を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることなどをすることにより,重要な証拠となるアルコール等の影響の有無又は程度に関する証拠収集,保全を妨げるものでございますので,刑事司法作用というものも併せて保護法益であると考えております。(同上)

▶故意の対象となる事実(認識・認容が必要な事実)

  • アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態
  • その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為(同上)
  • 死傷結果(21頁・上冨)=自分の行為でけがをしたり亡くなっているという状態を認識している必要があるということ(同頁・高見)

※運転上必要な注意を怠ったことは、過失であり、認識を求めるのは背理(第6回18頁・保坂)。

⇨よって、本罪は「故意犯と過失犯の複合形態」(同上)

▶「運転上必要な注意を怠り」

 現行の自動車運転過失致死傷罪の構成要件と同じでございます。この要件を付しておりますのは,この「三」の罪といいますのは,「二」の罪との対比で言いますと,正常な運転が困難な状態に陥るということを要件としておりません。したがいまして,無過失で人を死傷させた場合にまでこの「三」の罪を対象とすることは適切ではないということから,「その運転上必要な注意を怠り」ということを要件としたということでございます。
  なお,アルコール又は薬物の影響とは無関係な過失でございましても,文言上も,「その運転上必要な注意を怠り」というところには当たり得るということで考えております。(19~20頁・保坂)

▶「影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をした」

道路交通法の不救護罪のように,事故現場から離れる,立ち去ることにより即時に既遂に達するというものではなく,免れるべき行為と言える程度の行為が行われることが必要であると考えております。(20頁・保坂)

▷その場を離れた場合の既遂時期のメルクマール

当てはめの問題というのは個別の事実関係によるものでございまして,アルコール濃度を減少させることの既遂時期につきましても,前回も申し上げましたように,アルコール濃度の低減率というのは,人や体質や体調等によって様々でありますし,その場を離れる行為ですとか,その後の行動によっても様々でございますので,一概に申し上げることは難しいのでございますけれども,あえて一つのメルクマールとして申し上げますと,まず,「三」の罪といいますのは,生命,身体という保護法益を守るとともに,身体のアルコール濃度という重要な証拠収集を妨げることに当罰性があるという趣旨で設けるものでございます。身体に保有するアルコール濃度としてどの程度,精密な数値を特定して,証拠収集・保全がされているかという点からしますと,検知方法としてよく用いられている北川式飲酒検知器,いわゆる飲酒検知管というもので,これは呼気1リットル当たりのアルコール濃度を測定するものでございますけれども,その1目盛りが0.05ミリグラムとなっておりますから,0.05ミリグラムに満たない数値というのは,アルコール濃度を特定する証拠としては,実際上は考慮されないということになります。そうしますと,この1目盛り分,すなわち,0.05ミリグラム分のアルコール濃度の特定に支障を来すかどうかが,「その場を離れてアルコール濃度を減少させること」に当たるかどうかの一つのメルクマールになり得ると考えられるところでございます。したがいまして,その場を離れて呼気1リットル当たり0.05ミリグラムのアルコール濃度を減少させる程度の時間を経過した場合には,「その場を離れてアルコール濃度を減少させること」に当たると考えられまして,日本人の平均的な低減率というのをひとまず前提にすると,およそ40分程度の時間ということになるわけでございます。(第7回15頁・保坂)

▷影響を免れるための何らかの作為は必要か

単にその場を離れることだけでは足りず,よりその濃度を減少させるための何らかの作為ないし行為を要求するという御趣旨ですか。それとも,その場を離れることによる時間的な離隔というか,時間の経過に伴うアルコールないし薬物の濃度の減少で足りるということでよろしいんでしょうか。(20頁・武内)

後者の趣旨でございます。特段の別途の作為を要するとは考えておりません。(20頁・上冨)

▷影響免脱行為の具体例

更に追加的にアルコールを飲んだりとか,あるいは,アルコール濃度を時間とともに減少させることのほか,水を大量に飲んだりとか,排泄を高めるような行為も,その対象になり得るということだろうと思います。今申し上げた水を飲むというような行為については,その場を離れていなくても,追加的に薬物,アルコールを摂取するという行為でもなく,例えばその場で水をガブガブ飲んだというような行為は「その他」の行為として対象になり得ると考えております。 

▶法定刑を12年以下とした理由

酒気帯び運転罪と自動車運転過失致死傷罪,証拠隠滅罪,それぞれの複合形態であることを踏まえまして,これらの法定刑の合算したものより重い法定刑とするのは相当でないと考えまして,かつ,自動車運転過失致死傷罪が人を死傷させた場合と負傷させた場合とで法定刑を同じにしているということも併せ考慮いたしまして,人の死傷にかかわらず,法定刑は12年以下の懲役としてございます。(20頁・保坂)

▶救護義務違反との罪数関係

この「三」の罪と道路交通法の救護義務違反の罪につきましては,併合罪の関係に立つと考えているところでございます。(同上)

そうすると,117条の第2項で10年以下の懲役の場合ですと,現在併合罪で15年以下,これができて,併合罪になると18年以下という処断刑になるということでよろしゅうございましょうか。 (12頁・西田部会長)

はい,御指摘のとおりでございます。 (12頁・保坂)

 

参考資料

危険運転致死傷罪の量刑傾向

出典:https://www.moj.go.jp/content/001313463.pdfの5頁を基にClaudeで作成。